「新しい金融」とシニア金融マン

●三菱UFJ、スマホ金融で業種超え連携 大和や東京海上と(日経 2021年7月29日 18:00)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD282XX0Y1A720C2000000/
●三菱UFJが投入の金融アプリ、何ができる?(日経 2021年7月30日 7:00)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL297QA0Z20C21A7000000/

30日(金)の日経新聞1面のニュース。
三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)が「スマホ金融」で業界の垣根を越えた連携に乗り出し、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)で各社とデータ連携し、利用者は一元的に管理できるようになる、という内容。

このニュースに対する一般的なリアクションを同じ話題のYahooニュースへのコメントで探ってみたが、おおむねやや冷ややかで、
「要するにLINE PAYやPAYPAYの後追いを銀行がしようとしてるんでしょ?」
「スマホ決済やスマホ金融なんてセキュリティ面でも無理。銀行がやる意味あるの?」
「結局、全銀ネットの高い手数料を介するのであれば、インターフェイスだけ変わっても意味なくない?」
という趣旨のネガティブなものが目についた。

一方で、
「既得権益に縛られ新しいことに動こうとしないメガバンクが、初手からこのように大連携で動いたことはすごい」
というポジティブな意見も、少なくはあったが、目にした。

自分は、まったく後者の意見に賛成だ。
今回の動きは、「古い金融」のメインプレイヤーたちが、「新しい金融」の姿を想定し、はじめの第一歩を踏み出した、という画期的なニュースに思う。

このMUFGを中心とする取り組みは、「金融サービス仲介業」という形態になる。
昨年の1月にこのブログで「『金融サービス仲介業』のニュース」という記事を書いた。
ここで、金融サービス仲介業の登場の背景にあるのは、「昔からの大きな組織、つまり銀行だの証券会社だの保険会社だの、そういった枠組みが急速に“古く”なり」「(銀行や証券という)【組織】がAIなどシステムにとってかわられる動きを促進」する流れだ、と考えを書いた。
また、組織に属してきた【個(人間)】の価値が低下し、金融をバックボーンにする多くの者(特にロートル)は不要になるが、ピンチをチャンスにする気概で新しい世の中を想定し自らビジネスをクリエイトすべきだ、と結んだ。

過去記事「リブラ終焉か? そうでもないか? そしてスラマットは?」や「シンガポールのネット銀行にe-スポーツ企業が参入」にも書いたように、自分は「新しい金融」とは、情報と金融サービスが融合したものになり、場合によっては金融ビジネスはE-コマースの一環として集約されてしまうかもしれないとすら危惧している。
また、「金融」の枠が広がり、ネット上の特定経済圏での通貨に準ずるもの(暗号資産、電子マネー、各種ポイントのほか、デジタル資産なども含む)が同じサービス内で取り扱われるだろう。

顧客をコミュニティの中で取り込み、独自で経済圏を創ったり、複数の経済圏を繋いだりすることが「金融」と不可分になってくるから、そういう意味で「古い金融」に属する銀行などよりも、『スーパーアプリ』化を目論むLINEなどIT企業の方が有利だ。
そして、『スーパーアプリ』間の競争もグローバルで始動しようとしている。

このグローバル競争の中、極論として言えば、投資家保護ルールなど各国で統一できないことで“守られてきた”日本の金融ビジネスの大半が彼らに駆逐され、『スーパーアプリ』の中にある「日本国内の投資家向け金融サービス」のカテゴリーだけに存在するようになってしまうことも想定される。

そういう意味で、今回のMUFGの取り組みに最初から大和証券など異業種が参加したり、dポイントなどが加わっていることは、「新しい金融の担い手は(現在の金融ビジネスに属する)自分たちだ」という気概や積極性を感じる。

だとすると・・・早晩、「三菱UFJ銀行●●支店」「大和証券●●営業部」といった古い“要塞”の多くは無用の長物と化すことだろう。
スーパーアプリを要するIT企業のグローバル競争と同じスピードで経営資源を適切に配分しなければならない。「銀行マンが要らない時代」がとうとう本格的にやってくる。大リストラができなければ、金融ビジネスはITの軍門に下ることになる。

では、(自分がかつてそうであったような)金融マン、特に「今さら変われない」などとのたまうシニア金融マンはこれからどうすべきなのか。
『スーパーアプリ』下の金融ビジネスに集約化される一方で、“特別なお客様”(富裕層の資産運用や企業のファイナンスやM&A事案など)を扱う金融ジャンルは逆に希少価値が高くなっていく。
この“狭き門”を狙うしかない。そうでなければ、残念だが別業種に行くしかないが、多くの人々にはその道も険しいことだろう。

会社から「これを売ってきなさい」と言われてそれしか売れない人材では生き残れない。
一方で、銀行も証券も(古いビジネスモデルで人が多すぎるため)「これを売ってきなさい」スタンスをなかなか変えることができないだろう。

“特別なお客様”に信頼されるために、営業マンは、会社という【組織】ではなく、むしろ【個(人間)】の力で希少価値を発揮しなければならない。
これは、証券ビジネスにおけるIFAのような“独立系”に限らず、銀行・証券など企業に属していても同じだ。

しかし、個人が顧客のためにすべて調べてサービスを提供するなど不可能だ。
でも、企業に頼るだけでは、組織都合の販売圧力から逃れることは至難の業だ。
この解決策として、特別なナレッジを持つ特定の組織に属さないチーム形成、という方向が理想的だと思っている。

このブログでも何度か紹介しているが、自分の知り合いのプライベートバンカーの方は、彼を中心に有能なチームを作り、何年か前から“富裕層金融ジャンル下での特別なナレッジを共有する場(勉強会)”を運営している。
(有難いことに、自分はその中の一部のことをお手伝いさせていただいている)
彼らは、これを一歩進め、(勉強会と別に)ビジネスとして始動させており、独立系の営業マンや組織との提携を進めている。

こうした、特別な顧客に、特別なナレッジや質の高い情報などを、特別なサービスとして提供でき、「個の連携」を土台にした優秀な「個」たること。これが、“汎用化”の方向に向かうであろう「新しい金融」の対立軸として唯一生き残れる道だと思う。

そういう意味で、最後は蛇足だが・・・。
自分がずっと志してきた「コンテンツファイナンス」「エンタメファイナンス」というのも、「新しい金融に対峙する特別なサービス」の方向性に適うものではないだろうか。
コンテンツファンド革命 映画ビジネスと金融ビジネスの新たな関係』を出版してすでに四捨五入すると10年が経つ。
現在はもうコンテンツファンドという形態に固執しているわけではない(むしろ、デジタル証券のSTOやNFT、あるいは経済圏づくり、といったものに可能性を感じている)。
それでも、自分が志した「エンタメと金融をグローバルにつなぐことができるクリエイティブ人材」という目標が、もし優秀な金融マンたちとの「個」の連携の中で実現できれば僥倖に思うし、これからの時代に沿った方向性だと思っている。

<追記 2021/8/5>
日経新聞が、世界の銀行店舗削減の流れについて解説しているので、追記として参照しておく。

●世界の銀行店舗、なぜ削減?(日経 2021年8月5日 7:00)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODL048D40U1A800C2000000/

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