●小口融資、メルカリ系参入 スマホ決済の収益多角化競う フィンテック(日経 2021年8月3日 20:34)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB30BZ00Q1A730C2000000/

先日、「『新しい金融』とシニア金融マン」の記事で、「新しい金融」は情報と金融サービスが融合したものになり、「古い金融」と比べ『スーパーアプリ』化を目論むLINEなどIT企業の方が有利だ、と書いた。そして、IT企業のスーパーアプリ間の競争も、今後、し烈になってくることだろう。

上記日経記事のとおり、例えば「行動データ」に基づく与信など、世界中で情報(パーソナルデータ含む)を利用した金融サービスが展開されている。
元々、中国のテンセントやアリババが先行してきた分野だが、本家の中国ではこのところ政府による“締め付け”が厳しくなり、失速中。むしろ、グラブ(シンガポール)やゴジェック(インドネシア)など東南アジアでスーパーアプリをベースにした、決済をはじめとする金融ビジネスが急伸している。

アメリカではGAFAMといった巨大ITプラットフォーマーが強いので、スーパーアプリと呼ばれるサービスは出ていないが、Google PayやApple Payなど彼らも金融領域に進出している。
また、Facebookが暗号資産「リブラ構想」(現在は「ディエム」と改名され、構想もアプリ内決済という比較的おとなしいものに改変されている)を打ち出して世界の金融当局から袋叩き(!)にあったのは記憶に新しい。

Googleは日本でもスマホ決済ビジネスを始めようとしている。
先日、日本のPring(プリン)を買収して米国でのGoogle Payのサービスを日本でも適用させる公算だ。例えばグーグルの地図機能と連動して、利用者にあわせGoogle Pay加盟店からの特典や関連情報を表示させるなど、日本人に浸透しきっているグーグル上のサービスとの連携が見込まれる。
日本国内でのスマホ決済の競争は激しさを増していくことだろう。

●プリン買収でGoogle参入 モバイル決済、乱戦模様(日経 2021年7月13日 15:06 19:41更新)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB135DM0T10C21A7000000/

一方、アメリカには冒頭の日経記事に紹介されている米スクエアのように、GAFA以外でも(オーストラリアのアフターペイを3兆円で買収するなど)決済ビジネスのグローバル展開を模索している企業が有る。
スクエアは下の記事にある通り、

●米決済スクエア、仲介者不要の金融 ビットコインで推進(暗号資産(仮想通貨))(日経 2021年7月17日 5:27)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN16ELJ0W1A710C2000000/

DeFi(分散型金融、Decentralized finance、ディーファイ)の技術を開発すると発表している。DeFiは「銀行や取引所など第三者を介さない金融取引サービス、エコシステムなどのアプリ」で、全てインターネット・ブロックチェーン上で完結する管理者不要のシステム。
イーサリアムが主に使われているそうだが、スクエアはビットコインベースのシステム開発を行うらしい。

また、競合のPayPalもDeFi開発し、「ウォレットのスーパーアプリ化」を目指している。

●PayPal、DeFiやスマートコントラクト活用でウォレットのスーパーアプリ化を計画(HEDGE GUIDE 2021.08.02)
https://hedge.guide/news/paypal-looks-to-support-crypto-wallet-bc202108.html

管理者不在の金融サービス、それも既存の銀行や取引所が要らない、というのは、「古い金融」側の銀行・証券会社や金融当局などにとっては脅威でしかない。
例えばDeFiの一種のDEX(分散型暗号資産取引所、Decentralized Exchange)では(金融行政の下に置かれている)暗号資産取引所も不要だ。
DEXでは秘密鍵の管理を取引所に任せるのではなく、暗号資産を取引したい同士が、自らの鍵・アドレスを用いて直接取引を行う。
金融当局が「取引所に厳しくルールを課して、目を光らせておけば大丈夫」というわけにはいかない。

前のブログ「『新しい金融』とシニア金融マン」で、日本の金融ビジネスは遅れていて、このままでは「古い金融」側に属する金融マンたちの居所がなくなるかもしれない、遅れている、このままではいけないと、脅迫じみた書き方をした。
しかし、これまで書いたような巨大ITプラットフォーマーやスーパーアプリによる“金融エリア”への侵害やDefiといったDestructive(破壊的)な変革に戸惑いを見せているのは、「古い金融」の本丸(?)である規制当局そのものだろう。

●「巨大ITの監督強化急務」BIS提言、金融事業急拡大で(日経 2021年8月3日 14:30 )
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74443230T00C21A8MM0000/

上記記事のとおり、世界の中央銀行で作るBIS(国際決済銀行)は、巨大ITが金融分野で急速に存在感を高める可能性を指摘し、金融安定上のリスク要因になりうる、と警鐘を鳴らしている。
規制当局は特に、Facebookがリブラ構想で目指した「グローバル・ステイプル・コイン」については、「世界中で規制が整うまでは、サービスを開始させない」という強い姿勢で臨んでいる(6月の7か国蔵相・中央銀行総裁声明@ロンドン)。

それこそ、このブログで何度もいろいろな記事で書いてきたように(例:「リブラ終焉か? そうでもないか? そしてスラマットは?」)、今勃興している「新しい金融」と国際金融規制当局とのせめぎあいは一筋縄ではいきそうにない。

それでも、金融マン一人一人は、「国際金融当局の規制がある限り、『古い金融』に属する我々の居場所がなくなるはずはない」などと、ゆめゆめ思わない方がいい。
前回の「『新しい金融』とシニア金融マン」に書いたように、【個(人間)】の力を軸に、優秀な“つながり”を持つ努力を行うべきだ。

さて、遅ればせ(?)にも思うのだが、日本の金融規制当局側も、今、『デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会』という取り組みをスタートしている。
先日、第1回が開かれたようだ。

●金融庁「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」(第1回)議事次第
日時:令和3年7月26日(月)10時00分~12時00分
https://www.fsa.go.jp/singi/digital/siryou/20210726.html

●金融庁が分散型金融に関する研究会を設立、解釈や課題も明記(HEDGE GUIDE 2021.07.26)
https://hedge.guide/news/fsa-to-establish-study-group-bc202107.html

ここでは、暗号資産やCBDC(中央銀行デジタル通貨)、デジタルマネーによる送金・決済、デジタル資産と資金調達、Defiなどについて幅広く規制の在り方を検討するようだ。
世界のビジネス環境上、“遅れている”日本ではあるが、規制の在り方を日本のみ独自のガラパゴス・ルールを設けるわけにはいかない。
いきおい、国際金融規制当局と世界の巨大IT企業やスーパーアプリ提供企業などとの駆け引きの結果が反映されたルールが、少しずつ、それでも長い時間を置かずにできてくるだろう。
この研究会の今後については、できるだけウォッチしておきたいと思う。

さて、自分は「エンタメとファイナンスをグローバルにつなぐクリエイティブ人」を目指し、コンテンツファンドを推奨してきた。
しかし今は、コンテンツ関連の資金調達では「デジタル資産のSTO」「個別デジタルコンテンツのNFT」といったものに可能性を感じている。前回のブログにも書いたとおりだ。

そんな意味で、この研究会の対象に「コンテンツ・著作物」があるのはとても嬉しい(テンション・アゲアゲ↑)。
しかし、課題として掲げられている「実態としてマネロンに用いられる懸念」については、ややがっかりしてしまう(テンション・サゲサゲ↓)。

これまでこのブログ(例:「デジタル証券のシンガポール集中とエンタメファンド」「オリラジとポケモンとSTO(雑記)」など )で書いてきたように、例えばSTOとファン吸引力を当て込んだ企業マーケティングへの援用、といった“合わせ技”のコンテンツ資金調達など、これまでの証券会社の証券マンでは対応できないようなビジネス機会があり得ると思っている。
それは、「新しい金融」の一つの姿だとも思う。

確かに、コンテンツビジネスには胡散臭い“輩”がつきものなのは事実かもしれないが・・・「コンテンツ・著作権=マネロン」のレッテル貼りだけで立ち止まっては、「胡散臭いからやめる方向で」「臭いものには蓋を」となりかねない。
当局にはぜひ、「コンテンツ・著作権=企業のマーケティングに資する資金調達」のような新しい可能性を鑑みて、STOやNFTのルール化を考えていただきたい。