考察:水面下で進む金融の仕組みの変化

何となく、ここ数日に読んだ記事には、金融の新しい仕組みや変化について、示唆されるものがあった気がする。
バラバラな内容でまとまらないが、あえて、一つの記事にして、自らの頭の整理としたい。

●特典付きデジタル証券 三菱UFJ信託、個人向け開発(日経 2022年2月21日 18:34)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD210V70R20C22A2000000/

デジタル証券の共通基盤「プログマ」を持つ三菱UFJ信託銀行が、株主優待や会員証など「特典付き」デジタル証券を開発すると発表。魅力的な特典で個人投資家をひきつけ、企業側も資金調達しやすくなる効果を見込んでおり、今後発行企業を募って、年内にも実証実験を始める、ということ。

前回のブログ(2022年2月9日「三菱UFJ信託のプログマコインと『新しい金融』への期待」。特に「追記」)でも書いた通り、デジタル証券は発行企業のマーケティングに有用で、ユーティリティ・トークンやNFTを活用した金銭以外の“サービス”的な還元により、ロイヤルカスタマー獲得につながる、と思っている。つまり、企業のファンマーケティングの観点からコンテンツフィナンスの有用性が増すとも思っている。
前回ブログのみならず、このブログで何回も繰り返し書いていることだ。

この日経記事ではまさに「株主優待のようなサービスの拡大」とあり、これぞ自分がずっと言い続けていることだ。そういうわけで個人的に、プログマの今後の展開には大いに期待している。

この記事では「地方の旅館が改装費用を調達するためにデジタル証券を発行し、投資家は配当収入に加えて、回収後の宿泊券を得られる」といったケースを想定しているが、資金調達と受益者サービスの組み合わせには、もっともっと広がりがあるだろう。

この紹介事例にもある通り、デジタル証券の発行者は、これまでの大企業ならずとも、もっと小規模な事業者もあり得る。
(元証券営業マンの立場から言えば)例えば、地方の旅館などのお客様に資金調達の提案に行けるのは、銀行マンや信金マンぐらいだった(証券系ではせいぜいM&A提案くらい?)。
でも、このデジタル証券発行+ファンマーケティング提案、という“新しい領域”が証券マンに広がるのではないか、と思っている。そして、このブログにずっと書き続けている(例:2021年1月29日「SBI・三井住友FGのPTSと新たなエンタメ金融の考察」。

自分としては、ブログに繰り返し書いてきた通り、この新しい証券+マーケ営業は、大手証券会社の社員ではなく、“個”の力を持つ、独立系(IFA)や組織に属してはいても独自ネットワークを持つ、シニア金融マンに担ってほしいと思っている(例:2021年8月2日「『新しい金融』とシニア金融マン」。

●地銀システムにクラウドの波 コスト圧縮で生き残り 低コスト・軽量へDX 異業種・外資参入で導入相次ぐ(日経 2022年2月21日 20:00)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB17C8M0X10C22A2000000/

こちらは同日の日経記事。
地銀が基幹システムである勘定系システムを、これまでのNTTデータなどベンダーから、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)などのメガクラウドを中心に、クラウド系に移行し、中央集権型から分散型に変化してきている、という記事。
・北陸銀→日本ユニシス→AZURE(マイクロソフト)
・ふくおかFG→アクセンチュア→GCP(グーグル)
・東京きらぼしFG→SBJ銀行・SBJ DNX→?
・北洋銀・東邦銀→日本IBM→?(地銀10行で作る「TSUBASAアライアンス」)
・福島銀→フューチャーアーキテクト→AWS(アマゾン)

以前、ここ(2021年10月27日「金融向けIT規制と日本の金融ムラへの憂慮、強い『個』の連携」)で、金融機関向け行政指導において「そのシステム、ちゃんと運営してね」の矛先がクラウド業者やブロックチェーン業者に向かっており、それはかまわないが、現状の某メガバンクの状態を見ても天に唾する行為(?)では? と皮肉を書いた。
(某銀には自分の知人もいて、顧客からのクレームなどで非常にかわいそうな状況だと聞いている。中央集権型システムはもう、崩壊の途にある気がするのだが・・・。)

金融とは結局はシステムであり、大量のデータを構築し処理するにあたり、いち金融機関(および癒着先のITベンダー)では対処しきれなくなっている、と言えるのかもしれない。
これは金融機関のみならず、全銀ネットや日銀ネットなどの金融インフラについても言えることかもしれない。
にもかかわらず、

●地銀のサイバー攻撃リスク重点調査 金融庁、日銀と連携【イブニングスクープ】(日経 2022年2月22日 18:00)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB212ZE0R20C22A2000000/

この記事内で、「メガバンクに対して地銀はIT投資が遅れており、基幹システムの運用体制や外部のクラウドサービスの管理状況などを調べ、不備が有れば、行政処分も視野に入れる」とある。
地銀の基幹システムがクラウドサービスにシフトしているのを、「IT投資の遅れ」と評するのはいかがなものかな。言いたくないが、官公庁と“なあなあ”なITベンターからの圧を感じる書きぶりだ(個人の感想なので、言い過ぎが有れば、恐縮です)。

金融システムのクラウド化は、特に海外のチャレンジャーバンクなどで進んでおり、フレキシブルなサービス提供もある一方、システムも総じて安定している、という評価だ。
こうして“自国の既存産業優先”の姿勢で臨んでいるように感じられるのは、規制側としてどうかな、と思う。
金融庁や日銀(あるいは記事にある金融情報システムセンター(FISC))が監督者として銀行のサイバー攻撃リスクに備えるのは必要なことなので、それ自体には何も言うことはないし、地銀もクラウド業者やシステム開発業者に任せきりではなく、実態をきちんと管理すべきだとは思うので、記事にある重点調査自体に異論があるわけではないので、悪しからず。

●JPX、清田体制8年目へ 宮原元東証社長が執行役に復帰(日経 2022年2月22日 19:03)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB221LO0S2A220C2000000/

こちらは、日本取引所グループ(JPX)の新経営体制の記事。
「就任から8年目となる清田瞭・最高経営責任者(CEO、76)ら首脳陣は続投し、東京証券取引所の再編など重要案件に万全の布陣で臨む。4月にはデジタル事業を統括する中核子会社を新設。20年のシステム障害で引責辞任した東証社長を呼び戻し、取引の多寡に依存しない新たな収益モデルを模索する。」

2020年10月の東証アローネットのシステム障害・取引中断は、国内外で日本のシステム、社会基盤への信頼を少なからず棄損した事件だった。
その時の東証社長が4月新設のJPX総研の社長としてカムバックするそうだ。ネガティブにとらえる人もいるだろうが、自分は、この人はそれだけ優秀な人なのだろうな、と思う(実際には知らないが)。

このJPX総研では指数算出やデータ算出のデジタル事業を集約し収益源を拡げる期待があるとともに、デジタル証券や暗号資産の取り扱いをなど、新領域を探る役割も担う、という。
今後、デジタル証券が主流になれば、今の東証には“価値がなくなる”未来もあり得る。冒頭の日経記事の三菱UFJ信託のプログマを要するODX(大阪デジタルエクスチェンジ)などの頑張りで、投資家が「証券はすべてデジタルでいいじゃん」となるかもしれない(個人的には、当然、両社の領域は棲み分けがなされるとは思っているが)
なんとなく・・・今の国際金融ハブ競争の中で危機感を感じられないJPXだが(これも、あくまで個人の意見です)、普通にやっていたら生き残れない、という危機感をもって、このJPX総研主導での取引所改革に挑んでいただきたい。

ところで、東証は複数のメガクラウド上にバックアップシステムを持っていると聞く(メインのシステムも有るかは不明)。
前の記事に戻るが、だから、地銀がクラウドサービスを選択したことを「IT投資の遅れ」と称して金融庁や日銀がネガティブに言うのは自己矛盾が有る、と思う。
むしろ、以下はいずれも少し前の記事だが、

●グーグルがCMEに10億ドル出資、取引システムのクラウド化で提携(REUTERS 2021年11月5日7:46 午前)
https://jp.reuters.com/article/cme-investment-google-idJPKBN2HP2T4

●AWS、米証券取引所ナスダックのクラウド全面移行支援(日経 2021年12月1日 7:28)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN0102Z0R01C21A2000000/

世界最大の取引所グループのCMEは、グーグルの出資を受け、システムインフラをGCP(グーグル・クラウド・プラットフォーム)に移行しているし、競合相手のNASDAQのシステムも、もはやAWSのものだ。
もっと言えば、日本のデジタル庁自体がAWSとGCPを選択したわけで、そんな先を選んだ地銀を指して「IT投資の遅れ」などよく言えたな、と思うが、まあ、あんまり言うと何なので、この辺で。

いずれにせよ、世界中の証券取引所の裏側は「データ企業」を親会社に持つメガクラウドが担っている、という現実は、もはや世界の金融ハブが物理的にどこにある、ということ以前に大きなことかもしれない。
以前ここ(2020年10月13日「SBIの大阪金融都市構想とぐるぐる」)に書いたように、ロンドン取引所はリフィニティブを買収して、取引の土台を担うというよりは、そこで生じるデータ活用で生きようとしている。
このリフィニティブもAWSかGCPを活用していたはずだ(ググっても詳細は見つからなかったので、あくまで、“はず”で。なお、参照したブログ記事を書いた時点ではリフィニティブについてほぼ知識ゼロだったので、ちょっと恥ずかしかったりする)。

これまですっかり、日本のIT企業(というか、ゼネコン営業型のITベンダー)“下げ”、メガクラウド要するGAFA(のうちGA)“上げ”をしてしまったが、さりながら、自分にしても「日本の金融インフラを日本のシステム会社が担わなくて、ほんとに大丈夫なの?」という気がしないでもない。
もちろん、AWSもGCPも(AZUREも)あくまでデータセンターとそれに付随するシステム構築サービスであって、システム保守は担うけれど、データそのものの取得にはあずからない、という区分けのはずだ。「アマゾン本体とAWS、グーグルとGCPのデータ共有はなく、しっかり区分されている」というのが大前提のはずだ。
実態がどうなのかは部外者からは見えないので、つい素人目戦で、「重要なデータの基盤が軒並みGAFAに抑えられてしまって大丈夫なのかな?」と感じてしまうのは、何卒ご容赦いただきたい。

たとえば・・・以下は、あくまで“頭の体操”レベルの限りなく妄想じみた話なのだが、

●Inside Out 医療データ開国迫る巨大IT 健康管理や創薬に変革の波(日経 2022年2月20日 5:30)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC082GN0Y2A200C2000000/

このInside Outの記事では、アマゾン(AWS)やグーグルは医療機器経由や電子カルテなどの医療データを集めてAI活用で創薬などに役立てている、と説明されている。
日本は個人情報保護ルールの社会的合意形成に始まり、何もかもアメリカの周回遅れで、「産業競争力の源になる医療データを軒並み海外勢に占有される懸念もある」という書きぶりだ。

自分は、(これが“妄想”なのだが)金融ビジネスの中で「保険」は、今の金融の範疇を離れて、データを集約しシミュレーションを提供するIT企業の専任事業になっていく可能性が有ると思っている。例えば、医療関連データを駆使して各種保険関連シミュレーションを行う主体は、保険会社ではなく、データを集めて活用する側、つまりGAFA、という予測だ。
ニッセイもSompoもGAFAなどに駆逐されるかもしれない(もっとも、“お上”が保険業認可のルールにハードルを設けて、日本の保険会社が下請け的に残る道もあるかもしれないが)。

そういう意味で、(話を、銀行や取引所に戻すと)地銀やJPXに限らず、CME、NASDAQなど世界の取引所も、これから先どういう形で生き残っていくのか、変化していくのか。
国際金融体制を護持するサイドに立つと、銀行の機能も保険の機能も、GAFAにとってかわられる、という焦りが有るのかもしれない。
・・・ちょっと、表層的な事実を捉えてふくらまし過ぎかな(自己反省)?

冒頭に書いた通り、
「何となく、ここ数日の記事には示唆されるものがあった気がするので、あえて一つの記事にして、自らの頭の整理としたい。」
という思いで書いてみたが、まとまらないまま終わってしまい、反省。

ただ、そこに通底する「時代の変化」を予見させる“感じ”が、読者の方に伝わればありがたい。

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