TikTokと音楽産業と、「ファスト映画」の未来

●TikTokとヒット曲作る 米ユニバーサル、Z世代に曲拡散。ソニーは邦楽リバイバル狙う(日経 2021年7月20日 2:00)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC121PR0S1A510C2000000/

少し前の記事。
大手音楽レーベル(米ユニバーサル・ミュージック・グループやソニーグループなどの)が、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」と、ヒット曲を生む新しい仕組みづくりに取り組んでいる、という内容。

TikTokは(言わずもがなだが)、短いダンス動画などの投稿で世界中の特に若年層に視聴者層が広がっている動画投稿・配信アプリだ。中国の北京宇節跳動科技(バイトダンス)が運営している。

TikTokで“バズった”楽曲は国境を越えたヒットをもたらしている。
大手音楽レーベルは、このTikTokの投稿者・視聴者の連帯が持つ情報拡散力に“完落ち”し、「TikTokご利用者の皆さん。うちの楽曲をタダで提供するので、ガンガン使ってね」という、一見、“権利者らしからぬ”大盤振る舞いをする、という方向のようだ。

米ユニバーサルは所属する歌手や作曲家などの楽曲を、原則全てTikTok上に提供する契約を結んだ。
TikTokユーザーはテイラー・スイフトやクイーンなどのメジャー楽曲を切り取った30秒程度の音源を使い、自由に動画を制作・配信することができる。
競合の米ワーナー・ミュージック・グループもTikTok提供楽曲を増やしている。

ソニー・ミュージック・エンタテインメント(SME)は、TMネットワークやレベッカなどの80年代アーティストの楽曲5.3万曲を追加し、9万曲の邦楽を自由に使えるようにした。
現在、80年代を中心とする「シティポップ」が世界で流行しているが、そのヒットの枠を広げたい、という思惑を感じる。

さて、楽曲の権利者(著作権者、原盤権者)からすると、素人が楽曲を勝手に利用して切ったり貼ったりし、それをネットに上げて広く発信することは権利侵害に当たる。
それが、「勝手に利用して切り貼りして配信するなど許さん。訴えてやる!」とならずに「どうぞどうぞ、タダで使ってね。拡散してね!」となるのはなぜか。
それは、楽曲の権利者が、TikTokユーザーに無料で利用させることで、周り回って“儲かる”ことを信じているからだ。

一つは、TikTokでバズることで、正規の有料音楽配信(ストリーミング、ダウンロード。iTunesやSpotifyなど)サイトでの売り上げアップを狙う、というPRの観点からだ。

この記事で例として、ソニー・ミュージック・レーベルスのYamaというミュージシャンの『春を告げる』という楽曲の事例が挙がっている。
TikTokが火付け役となり、音楽配信サービスのストリーミング回数が1億回を上回る結果になった、という。

これまでの、タイアップやライブといった多額の宣伝費を必要とした「ヒットの方程式」が変わり、一般人の投稿が共感によってつながっていく「共感マーケティング」が主役に躍り出たと言っていい。
(音楽という)コンテンツの世界観を消費者が再構築していく「ファンダム」の流れ、ともいえる。

そして、音楽配信サービスのマーケットは海外に広がっている。ちまちまと日本国内の限られた層をターゲットにする必要はない。
記事にあるとおり、すでに音楽市場はCDなど記録媒体(パッケージ)によるものは一部にすぎず、ほとんどがストリーミングやダウンロードのサービスに移っている(そして、世界の音楽市場の規模は回復、拡大基調にある)。
最初から「世界の皆さんへお届け」を前提にできるのだ。

もう一つは、音楽配信サービスだけでなく、こんどはTikTok含むSNSやゲーム配信からカネを得よう、という動きだ。
上記記事には詳細な説明はないが、ユニバーサル・ミュージックは、今回のTikTokとの契約で、TikTok側から「ライセンス料や、再生回数に応じた利用料を得る」ことになっているそうだ。
・・・ユーザーにはタダで使わせ、権利者には権利料を支払うTikTokは、ではどこで稼いでいるのか、の説明はこの記事には見当たらない。
(おそらく、「TikTok For Business」のような商業利用からの還元を狙っているのでは、と推察するが)
一応、以下のような各サイトでも調べてみたが明確には分からなかった。

(参考)
●なぜTikTokに音楽業界が集まるのか? TikTok発アーティストの「メジャー契約」が急増する理由(All Digital Music  2021.02.21)
https://jaykogami.com/2021/02/17335.html
●音楽ビジネス生態系が変わり、レーベルが「サービス化」した今、TikTokにレコード会社が群がる理由(Note:StudioENTRE代表取締役 山口哲一氏 2021/03/01 15:59)
https://note.com/yamabug/n/n44f77d257a4b

いずれにせよ、楽曲(音源)を使った「新しい稼ぎ方」が模索されているのが現状なのだろう。
この「新しい稼ぎ方」の可能性は、(大手企業のCMや大型商業映画の「シンクロ化権」のような既存のビジネスにつなげる可能性も含め)TikTokを媒介とした“バズる”音楽の、投資対象としての価値(著作権・原盤権)を投資家に喚起することにつながる。

上記日経記事にも、音楽(音源)の新しい稼ぎ方に注目し、現在、音源がファンドなどを通じて投資対象となり、ボブ・ディランの楽曲の著作権が3億ドル超で売買されるなど過熱化している、と、紹介されている。

この傾向は、以前、『SBI・三井住友FGのPTSと新たなエンタメ金融の考察』で参照したとおり、ここ数年続いている現象だ。

(参考)
●米投資会社がテイラー・スウィフトの原盤権を約312億円で買収した理由(Rolling Stone Japan 2020/11/20 17:30)
https://rollingstonejapan.com/articles/detail/34946

これまで紹介したことを、別の角度から自分なりにまとめてみると、
1.【すでに起きた産業転換】CDなどパッケージから音楽配信サービスへ
2.【すでに起きたマーケティング環境の変化】SNS、TikTokなどで「共感マーケティング」「ファンダム」が定着
3.【現在進行形の「新しい稼ぎ方」の可能性】SNS、TikTokなどで権利者が稼ぐ方法論が模索されている
4.【マネーマーケット化】「新しい稼ぎ方」に期待した投資家資金の流入
そして、『SBI・三井住友FGのPTSと新たなエンタメ金融の考察』で書いた自分の“立ち位置”から加えて言うと、
5.【将来の、新たな“win-win-win”体制の構築】クリエイティブ側が搾取されない権利ビジネスの構築
へとつながる。

それは、現在よりもコンパクトな「音楽出版社/レーベル」の設立だったり、NFT(Non-Fungible Token)やSTO (Security Token Offering)といった、“新しい金融”領域に親和性のある流れだと思っている。

ところで、この間、『「ファスト映画」は害虫なのか?』というブログ記事を書いた。
「ファスト映画」を害虫扱いする映画・TV業界の保守性に怒りすら感じ、むしろ「ファンダム」の場としての新たなビジネスの可能性を模索すべきだ、という内容だった。
(自分が以前模索した『スラマット』というビジネスへの展開可能性も少し書いた)

今回のTikTokと音楽レーベルとの関係は、映画・TV業界にとっても示唆的ではないだろうか。
音楽レーベルは、「音楽を切り貼りして、自分のコンテンツとして発信する」TikTokerたちを「友人」として迎え入れた。
片や、映画・TVのステークホルダーたちは、「映画を切り貼りして、自分のコンテンツとして発信する」ファスト映画制作者たちを、“犯罪者”のレッテルを貼って(どう考えても“恣意的に”)警察に逮捕させた。

ファンを大事にせず、権利ばかり主張する人たちが、今後、どうなっていくのか・・・“見もの”なのかもしれない

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