アルケゴスとつまらぬ陰謀論、ファミリーオフィスの規制懸念について

●アルケゴス巨額損失事件、「金融規制強化」を引き寄せる転落劇の内幕(Yahooニュース~現代ビジネス 4/20(火) 6:02)
https://news.yahoo.co.jp/articles/472f21198ae3ba6b8b7afdb530c368d847470c5e

先月来、アメリカのプライベート運用会社のアルケゴス・キャピタル・マネジメントの話題でマーケットがかまびすしく、自分も興味を持っている。
興味の対象は、一つはこの記事にある「今後の金融規制強化」の問題だ。もう一つは、「なぜ金融機関はアルケゴスとの取引を拡げたのか」だ。

アルケゴス問題とは、非常にかいつまんで言うと、過度にリスクを取って取引を拡げた大口投資家(アルケゴス)が相場に失敗して、取引していた金融機関(クレディスイスや野村など)に莫大な損を与えたことで、関連して金融システム全般への波及の有無が注目されている、というものだ。

運用者のビル・ファン氏(ファン・ソングク。韓国生まれ)がどういった経緯でアルケゴス社を興し、どういう運用スタイルだったかはこの記事に詳しく書いてあるので割愛する。
アルケゴスの運用資産は設立時の2億ドルから破綻前では100倍になっていたという。
バイアコムCBSなど少数の銘柄にレバレッジをかけて投資し、金融機関との間でトータルリターンスワップ(=株価のリターンや配当などの原資産から生まれた全キャッシュフローと、固定金利や変動金利を交換する)を結ぶことで、自社で原資産を持たずに投資対象のリターンを得ていた。
金融機関は金利収入のほか、売買で発生する膨大な手数料が手に入っていた。レバレッジをかけた運用資産が500億ドル超とあるから、確かにすごい売買手数料になるだろう。

アルケゴス・ショックの影響による金融機関の損失はJPモルガン・チェースの試算で100億ドル(1.1兆円!)にも上るという。クレディスイスが47億ドル、野村が20億ドル、モルガン・スタンレーが9.1億ドル。野村以外でも三菱UFJが3億ドル、みずほが1億ドルほどの損失を被っているようだ。

日本のバブル崩壊の際に投入された公的資金で預金保険機構を通じてなされた額が13兆円だったと聞いている。アルケゴス1社でその約10分の1相当額の損失を生んだとはすごい。
もしアルケゴスの“ような”運用会社がほかに10社あるなら、あのバブル崩壊並みの潜在リスクが現在の市場にはあるということだ。もちろん、当時と今とでは世界の金融市場にあふれているキャッシュ総額は雲泥の差なので、金額だけで物を語るのはミスリードになるだろうが。

各金融機関が損害を被ったのは、記事にもあるように複数の金融機関とのスワップで個別銘柄のエクスポージャーが法的開示対象外だったこともあり、各金融機関で他所のポジションの状態が把握できていなかったからだという。

●アルケゴスの実態、パウエル議長が看破 豊島逸夫の金のつぶやき(日経電子版 2021年4月14日 11:18)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB00009_U1A410C2000000/

上記記事では、FRBのパウエル議長の言葉で、「問題視されている株スワップは、市場で普通に使われている売買手段」「そのリスクを銀行は理解しているはず。各銀行が承知していなかったのは、この1人の投資家(ファン氏という実名は出さず)がニューヨーク市場の5、6社と株スワップ取引をしていたことだ。各銀行は、その事実を、担保不足による強制売却処分の段階になって初めて知った」と説明がされている。

また、問題は「トータルリターンスワップ」だけでなく、アルケゴスが通常のヘッジファンドでなく「ファミリーオフィス」だったことで開示規制の対象外だったことがもう一つの“隠れ蓑”になった、と書かれている。

ちなみに、アルケゴス破綻に追いやったバイアコムCBSの売りを喚起したゴールドマンに対し、「個人投資家には買いを煽っておいて/護送船団の口約束を破って、売り抜けた」的な怨嗟の念が個人投資家や被害を被った金融機関から向けられているようだ。

●米アルケゴス、個人投資家も巻き込む 問われる業界モラル 豊島逸夫の金のつぶやき(日経電子版 2021年4月7日 11:52)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD00008_X00C21A4000000/

上記記事のとおり、アルケゴスの問題には、
・各金融機関がアルケゴスを過度に信用しコントロールできなかった可能性(トータルリターンスワップの問題)
・アルケゴスが適切と思われる情報開示を免れてきた可能性(ファミリーオフィス規制の問題)
・バイアコムCBS増資に絡み、金融機関内(プライマリーブローカー部門・引受部門)のチャイニーズウォールにより投資家の不利益を招いた、あるいは利益相反があった可能性
などの複合的な問題が絡んでいる。

とはいえ、個人的に不思議なのが、どうしてクレディスイスをはじめとした金融機関はそこまでアルケゴスとの取引を拡大したのだろうか、という“そもそも”の点だ。

もちろん、膨大な手数料収入につられたのだろうし、各金融機関のトータルリターンスワップもパウエル議長の言う通り、別段、疑念を招く商いというものではない。
それでもなんとなく違和感を持ってしまうのは、自分がヘッジファンドや積極的な投資を行う運用会社と、その注文を受ける金融機関(のプライムブローカー部門)の実態について詳しくないからだけなのだろうか。
いくら手数料が稼げるからといって、また、競合金融機関の存在の想定も全くせず、1社にこれだけのエクスポージャーを取らせるものだろうか、といぶかってしまう。

【注:以下の文章には妄想の類が含まれるのでご容赦ください】
自分は「物語(フィクション)」好きなので、ビル・ファン氏あるいはアルケゴスが金融機関にそれだけの信用力を認められた背景に、ファン氏の運用実績と表面上の資産額“以外”に何か有ったのではなかろうか、と妙な想像をしてしまう。

アルケゴスはファミリーオフィスなので、資産の出し手はファン氏とその“ファミリー”しかあり得ない(?)のだが、もしかしたら表に現れていない真の投資家がいて、その人物の影響力で各金融機関内で“特別な案件”としてスルーされていたりしたのではないか、などだ。

ファン氏は牧師の息子で熱心なキリスト教徒で、「Grace & Mercy Foundation」という慈善団体を運営している。彼自身は質素な生活をしていて運用益の一部を財団に寄付し続けてきたと聞いている。
そういった背景や人的なつながりが、なにがしかの影響を与えていた可能性はないだろうか。

あるいはまったく別で、ファン氏が香港市場でインサイダー取引で有罪となった対象銘柄が中国銀行や中国建設銀行だったということもあり、当時の“インサイダー”たちの関与が今のアルケゴスにはあって、件の「米中対立」の文脈であぶりだされている、というような(これは完全な)妄想も湧き上がってしまう。

バイアコムCBSの暴落前の値段の釣り上がりや、逆に“嵌める”ような(?)投げ売りに、相場操縦のごとき違和感を感じてしまうのは、単に自分が陰謀論好きだからだろうか。
米中対立を背景になにがしかの資金を担う運用会社が狙い撃ちされ嵌められたような物語が描ければ、経済小説として面白いかもしれない。

あまり根も葉もない妄想を書き連ねると怒られかねないのでこの辺にしておこう。
あくまで戯言なのでご容赦いただきたい。
【以上、妄想終わり】

さて、最初に書いた、自分がもう一つ興味がある「今後の金融規制強化の問題」について。
当然、アメリカで今後、アルケゴスのような体制のファミリーオフィスへの規制が強化されていくだろう。
最初の参照記事にある通り、証券取引委員会(SEC)や米上院銀行委員会で調査やヒアリングが始まっているようだ。この後、公聴会が開かれるなどし、具体的な規制案ができてくるだろう、とのこと。

日本ではファミリーオフィスそのものの認知度が低いため、今回の件で、日本で「よく知らないけど、ファミリーオフィスって、問題だよね?」という風潮が出てこないか少し危惧している。

というのは、自分もお世話になっている富裕層ビジネスを長年経験されてきたプライベートバンカーの方が、今、「日本にファミリーオフィスとそのビジネスを普及させていきたい!」と頑張っておられるからだ。

ファミリーオフィスという存在は別にいかがわしいものではない。
超富裕層の個人やファミリーの資産を一括に管理する専用の資産運用サービスで、その主な目的はファミリーの富と遺産を管理して将来世代のために守ることだ。
一つのファミリーオフィスに、資産管理のプロ、税理士、会計士、弁護士、財団設立のプロなどがフルタイムやパートタイムで参加するケースが多い。
面白いところでは、アート専門家など、必ずしも伝統的な資産運用にとどまらない人材が参加するケースもあるらしい。実際、子弟の教育や慈善活動など、ファミリーオフィスの役割は幅広い。

16世紀頃のヨーロッパの王侯貴族の資産管理がファミリーオフィスのルーツだと言う人もいる。アメリカでロックフェラー、モルガン、カーネギーなどの華麗なる一族のファミリーオフィスが相次いで誕生して以降、急速に浸透していったそうだ。

ファミリーオフィスは世界に1万社以上あり、運用資産トータルで6兆ドルもある。
一つのファミリー専用のシングル・ファミリーオフィスだけでなく、複数のファミリーの財産を管理するマルチ・ファミリーオフィスも存在する。
富裕層の資産管理専用の金融機関と言えば「プライベートバンク」だが、これも元々ファミリーオフィスから始まって大きくなった金融機関が多い。

だから、今回のアルケゴスがファミリーオフィスだからといって、「ファミリーオフィスは規制の網がかかっていないから大問題だ」というのは、あまりに短絡的なのだ。

●(参考)UBS Global Family Office Report 2020
ubs-global-family-office-report-2020.pdf

例えば、上記『UBS Global Family Office Report』で見ると、総じて上場企業の株式や流動性の高い債券といった伝統的な資産で運用されているのがわかる。

むしろ、ファミリーオフィスであるにもかかわらずレバレッジを掛けて超積極的運用を行うアルケゴスのようなケースの方が言わば邪道な存在なのだ。

アルケゴスがファミリーオフィスの形態なのは、「トッド・フランク法(金融規制改革法)」による証券取引委員会(SEC)や商品先物取引委員会(CFTC)の規制を逃れるためにヘッジファンドがファミリーオフィスに“形態模写”したからだ。
「家族にのみ投資助言し、家族または家族が経営する事業体が100%所有」する運用会社(ファミリーオフィス)なら、SECへの登録や所有者・運用資産の開示を免れることができる。
これを逆手にとって、これまで少なくないヘッジファンドがファミリーオフィスへ形態変更をしてきたらしい。

そういう意味で、本来のファミリーオフィスの趣旨と違うハイリスク運用の「ファミリーオフィス形態模写型ヘッジファンド」はブラックボックスになっていると言え、今後のアメリカ金融市場の大きな潜在リスクであることは間違いない。

今回の件でファミリーオフィスに開示面での規制強化が図られるであろうことは間違いなかろう。
でも、それはごく一部の“特殊な”ファミリーオフィスに限られたもので、一般的なファミリーオフィスに波及するものではないはずだ、と思う。
(もし、すべてのファミリーオフィスへの資産開示義務の検討などがなされれば、超富裕層から大バッシングが起こるだろう)

一方で、日本ではファミリーオフィスそのものの知名度がまだ低い。
自分は、ファミリーオフィスは日本において今後の成長セクターととらえている。
先述のプライベートバンカーの知人の受け売りだが、これまで金融機関や不動産業者など個別の「売らんかな」が先行してきた“括り”のままでは、富裕層が安心して資産を預け、様々な相談をすることは難しいだろう。
中立で包括的かつ長期に渡るサポートができる体制が必要で、それは結局、ファミリーオフィスという形態に行きつくような気がする。

件の知人は、一足飛びにファミリーオフィスの運営というより、士業や金融マンなど富裕層ビジネスに携わる“個”のネットワークを広げ、コンサルとして携わるようなビジネスを始動している。
勝手な話だが、自分も上記ファミリーオフィスにおける「アート専門家」よろしく、あわよくば自分が目指してきたエンタメファイナンスの方向性と何か接着点があれば、と思っている。
(「趣味」や「人生の夢」の切り口などでも可能性はあるのではないか)

話があちこちに分散してしまったが・・・。
今後もアルケゴス関連のニュースには中止(4/28修正 ×中止→〇注視)していたいと思う。

<4/28追記>
アルケゴスでいろいろググったら、この会社にはアンディ(アンドリュー)・ミルズさんという、なんとなく大物っぽい方がエグゼクティブにおられるようですね。
直接の関係は分かりませんが、前述の「ビル・ファン氏あるいはアルケゴスが金融機関にそれだけの信用力を認められた背景に、ファン氏の運用実績と表面上の資産額“以外”に何か有ったのではなかろうか?」の問いに対し、この方の人脈などが背景に有ったのかもしれませんね。
まあ、当て推量はよくないので、あくまで備忘録的に追記する次第。
・・・しかし、野村も当初以上に損を拡げ、UBSも参戦(?)、と、この問題は簡単には収束しない感じですね。

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