●まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第68回 〈後編〉アニメの門DUO 数土直志氏×まつもとあつし対談『巷のアニメ業界話は5年遅い!?』(ASCII.jp 2021年02月12日 18時00分)
https://ascii.jp/elem/000/004/042/4042808/

アニメ業界のジャーナリスト・まつもとあつし氏と数土直志氏との対談。最新のアニメ産業の概況が見えて勉強になった。

(勝手なまとめ。自己解釈多し)
・『鬼滅の刃』の大ヒットは草原に燃料が注がれるように映画観賞に飢えた一般層の視聴意欲の爆発が起こった
・マニア層向けジャンルだった作品(『劇場版ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン』)興行収入20億達成は、一般映画ファン層が普通にアニメを見る時代に本格的に突入していることを示す
・2020年はエポックメイキングな年。グローバルなヒットを前提とするハリウッドはこれからのビジネス環境の変化に戦々恐々。「ハリウッド映画がなくてもアジア市場が成立するかもしれない」
→世界最大ヒット作は中国国内だけで興行収入を上げた『八佰』
→『鬼滅の刃』ヒット
・一方、『羅小黒戦記』(中国アニメ)=ユニバーサル性でヒット。すでに日本アニメ・中国アニメ・ドリームワークスなど世界規模のアニメは同じ土俵で戦い始めている
・日本はすべてが劇場で見られる稀有な国
・「クールジャパン」=「日本の文化を輸出します」でなく、「グローバル化」=「いろんな文化が互いに入ってくる」
・海外の配信大手がアジア市場を目指す動きが加速。一方、日本のアニメ企業が海外進出を強めている
・Netflixの戦略が大きく方針転換してきた。「配信権だけしか買えませんよ」から「制作費全部出しますよ」=「企画から一緒に作りますよ」(アニメ制作会社のクリエイターたちと)
・これまでNetflixは「プラットフォームなのでライセンス事業はしません」。だが、今後はライセンス事業へ展開していくのではないか
・実際、アメリカのティーン向け事業でライセンシングビジネス(ガジェット=モノとアニメとを組み合わせた展開)
・結局、「IT企業」から「スタジオ」に。ディズニーもワーナーもコンシューマープロダクト部門やゲーム部門を持っているが、それと同じ
・Netflixのターゲットは伸びしろのあるアジア。萌えアニメ・アイドル系・日常系も。HBO Maxなどでも同じか
・一方で外資配信には大規模な撤退リスクも
・日本企業のグローバル化。ソニーグループ、バンダイナムコ、ブシロード。M&Aで「時間を買う」
・今、日本のアニメ業界の変化が激しいが、「製作委員会ワルモノ説」など、古い常識が蔓延しついていけていない人が多い

自分も、これを読んで情報アップデートさせていただいた。
特に興味深かったのがNetflixに関する部分。すでにグローバル配信権取得だけでなく製作・著作権取得=そのために優秀なクリエイター(制作会社)と組もうとする流れは理解していたが、すでにディズニーよろしく「スタジオ」化の動きもみられている、というのがよく分かった。
3年前に「「コンテンツ・イズ・キング」は幻か?③」で「勿論、いつ彼らが大きな牙をむいて「著作権そのものをよこせ」と言ってくるかもしれないけれど。とはいえ、アメリカの映画・テレビビジネスの歴史を考えるとその可能性は低いだろう。」と書いたが、その予測は完全に外れたようだ。もちろん、制作会社や協業者の有無(製作委員会を絡めたプロジェクトなど)など、ケースバイケースではあるが。

だからといって別に「結局、Netflixによるコンテンツ独占がすすむのか~」「これじゃ、川上から川下までコンテンツを独占しようとする中国テンセントと変わらないじゃないか~」などと懸念したり、がっかりしたりすることでもない。
これは結局、「劇場→有料テレビ・有料配信→DVD(媒体)→地上波テレビ/+マーチャンダイジングなど」という“昔からのウィンドウモデル”が「Netflix/+マーチャンダイジングなど」あるいは「Netflix→劇場→有料テレビ・有料配信→DVD(媒体)→地上波テレビ/+マーチャンダイジングなど」に変わっただけの流れに過ぎないからだ。

だから、がっかりするのは劇場ほか“歴史のある”業界だけで、制作会社やプロデューサーなどクリエイティブ側は、自分が「「コンテンツ・イズ・キング」は幻か?①」~⑨で書いたように、「スタジオ・テレビ局などプラットフォーマー」との「(理不尽な)ブン取り合い」の中で、どれだけ有利な条件を獲得していくか、という戦いが、以前同様行われるにすぎない。

例えば、「スタジオによる権利独占」が進んだ昨今以前の、日本のバブル期あたりでは、アメリカ映画は「スタジオ製作」「インディペンデント製作」と大別された。
インディペンデント映画はグローバルな配給権を糧に銀行から借り入れして映画を製作する(銀行家フランズ・アフマンが生み出した)“フィルムファイナンス”で躍進したし、コンテンツファンドによる外部資金の流入もそれを後押しした(投資家にとってはレバレッジドリースの税制メリットの追い風はあったが)。

何が言いたいかというと、スタジオ・プラットフォーマー(流通側)とのパワーゲームの中で、“制作者・クリエイティブ側”は、ファイナンスや収益ウィンドウの面で、彼らに負けない武器を持つ必要がある、ということだ。
これには当然、制作会社も資本増強をしてパワーゲームに伍するようにしていく、ということもあり得るだろう(現実問題、なかなか難しいとは思うが)。

もう一つ、より“草の根”レベルでの「民主的」な製作・流通手段と、権利確保の手立てを作れないだろうか。
当然、そんなことは『鬼滅の刃』のようなメガ・コンテンツではありえず、UGC(User Generated Contents)に近いものがメジャーなものに育っていく、という“一攫千金”なビジネスモデルにならざるを得ないのだが。

前回、「SBI・三井住友FGのPTSと新たなエンタメ金融の考察」で、<イニシャルなLLPとシニアビジネスマンの活用>という考察をした。

・“メタ”な段階でのコンテンツにファンが集まり、そのファンが集まる熱量を期待して、企業マーケティングへの援用や映画などの高次な(川下)コンテンツ製作につなげていく、という流れ
・「有望な原作を見つける」「“パートナー投資家”をマッチングする」「ファンを集める(寄付なども)」「集ったファンの熱量を活用する(スポンサー)」「川下(大型)コンテンツ化への物理的・金銭的サポート」といった一連の流れをサポートする金融ネットワーク上の仕組み
・「(シニア)金融マン」が それを担う、という構造化
・原作者とパートナー投資家(プロデューサー=シニア金融マンなど)をマッチング
・LLP作成と運営のサポート
・企画支援ファンド

この構造をベースに、ファンコミュニティ・顧客基盤(より具体的に言えば、そこに集う潜在顧客含む個人データ)をメジャー案件化する前に構築し、付随ビジネスに活用、というビジネスを付着させる。
(これが、自分の思い描く「企業協賛イベント→STO」なのだが)

なお、「パートナー投資家」は本来、「シニア金融マン」「金融マン」にこだわる必要はないし、むしろ“(一定の)投資ができる”人に限られるので、それこそ幅広くターゲット化したほうがいいのかもしれない。
とはいえ、今や激動の坩堝に巻き込まれている金融マンたちは多く、このパートナー投資家の位置に適う人材が多いことだろう。

<2021/2/13追記>
なお、メタコンテンツ取得・運営の事業体の形にLLPがいいのかどうかも、検討が必要かもしれない。
出資しない(できない)原作者に還元を、という面ではガバナンスが自由なLLPはいいと思う。
一方で、例えば、企業M&A(第三者割当増資含む)で事業が継続しつつもオーナーが変わるような形態を想定すると、株式会社やそれへの転換が可能なLLCがいい、という考えもあるだろう。
いずれにせよ、ビークルの形態といった細部はともかく、M&A仲介ビジネスを含めた“金融ビジネス”への発展可能性もあることから、この構造化を担う「運営母体」は“金融ビジネス”の要素が強い“複業”になる。
<追記終わり>

この流れを統括する運営母体のイメージは、<2/13追記:金融ビジネスを軸にした>コンサル業でもあるし、(新しい)メディア企業であるかもしれない。
(このポジションは、うまく行けば「美味しい」ことになるはずだ!)

こんな民主的コンテンツ製作の流れが一定のシェアを得られれば、スタジオ・プラットフォーマーの理不尽なブン取りに抗して、「コンテンツ・イズ・キング」の世界が実現するかもしれない。

本件、このように声を出しながら、少しずつ動いてみようと思っている。