さっきアップしたブログ(『このブログのテーマにある一貫性』)のとおり、「新しい金融」の観点で気になった記事を。

●三菱UFJ信託、デジタル証券を即時決済 独自に電子通貨【イブニングスクープ】(日経 2022年2月7日 18:05)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD26EAK0W2A120C2000000/

記事曰く、
「三菱UFJ信託銀行は商業不動産などを小口売買できるデジタル証券の普及に向け、即時決済できるデジタル通貨を発行する。証券をデジタル化すれば取引は即時に完了するが、現行制度上は資金決済まで2日ほどかかる。デジタル通貨で決済のスピードも速めて利便性を一段と高める。SBIホールディングスや三井住友フィナンシャルグループが2023年に始めるデジタル証券の取引市場でも使われる見通しだ。」
とのこと。

三菱UFJ信託はデジタル証券の「発行」「流通」「決済」の中で、決済(権利移転)を担う中立的プラットフォームとして「Prog///at(プログマ)」というシステム・サービスを始めている。
プログマは、デジタル証券の流通を担うSBIホールディングスや三井住友フィナンシャルグループの私設取引所(PTS)である大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)との連携も進んでいて(2021年10月20日『大阪金融都市構想-新PTSの続報と「新しい金融」』)、デジタル証券における「ほふり」(証券保管振替機構)の役割を担うことになる。

日経記事にあるとおり、円連動のステープルコインの「プログマコイン」を介しての決済については、「T+0」つまり決済リスクがゼロになる同日(即時)受け渡しが可能になる。
(証券決済では約定日から受渡日の日数により、“T+〇(日)”という言い方をする)
記事に「通常の取引は証券の引き渡しや資金決済に2日ほどかかっていた。」とあるが、確かに、自分が山一に入った頃はまだ日本株の受け渡しは「T+4」だった。今は「T+2」。それだけでも隔世の感がある。

ところで、日本株の決済が「T+2」なのって、どんな根拠があるんだろうか?

これまで、長きにわたる各方面の調整を伴う証券決済制度改革を経て、日本株や債券は「DVP決済」という状況を実現している。
DVPとは「Delivery Versus Payment」の略で、証券の引渡し(Delivery)と代金の支払い(Payment)を相互に条件を付け、一方が行われない限り他方も行われないようにし、資金/証券を渡したにもかかわらず取引相手からその対価となる証券/資金を受け取れない「取りはぐれ」リスクを回避するための仕組みのこと。
資金については日銀ネットの当預系、証券については日本証券クリアリング機構といった証券系の処理を、相互連動することで実現した。
とはいえ、自分はこの辺、あまり詳しくないため、あくまでネット記事などからの参照情報ゆえ、あしからず。

(参考)日本取引所グループ(JPX)資料より
https://www.jpx.co.jp/learning/education/school/materials/tvdivq00000039zc-att/p.20-31.pdf
こちらは日本株の東証での株式取引に際する決済についてまとめてある資料。
証券会社は同社で発生した同じ決済日・同じ銘柄の株式の売買を相殺し、株式の決済をJPXグループの(株)日本証券クリアリング機構(JSCC)を通して行う(売買が成立した証券会社同士ではない)。同時にすべての銘柄の差金決済をJSCCとの間で行う、と説明されている。
証券会社間の株式の移動は、JSCC(株)の指図に基づいて(株)証券保管振替機構(ほふり)において管理される。
ほふりでは証券会社経由で株主情報を管理しており、発行体が作る株主名簿更新のために、基準日時点の株主情報を発行体に知らせている。

で、結局、株式の証券決済が「T+2」である根拠は、「?」。よくわからない。
おそらく、DVP決済の仕組み上、どうしてもこれだけの日数がかかってしまう、ということなのだろう。
法的に決められているわけではないと思われるし、もし何がしかの規定があったとしても、それは物理的制約に起因するルールなのだと思われる・・・あくまで個人の解釈だが。
つまり、「日銀ネット」「JSCC」「ほふり」(それ以外にも?)というDVP参加者の連携の現時点での限界が「T+2」なのだと思う。

一方、ブロックチェーンを活用したデジタル証券(セキュリティ・トークン)の場合、理論的には、誰が誰に売買して今誰が持っているか、をほぼ即時に把握できる。はずだ。
この証券決済と、同じくブロックチェーンで流通管理される暗号資産(≒電子通貨)での決済であれば、両者は連動し、証券決済も資金決済も即時に行える。はず。
法定通貨連動のステープルコインなら、後々(暗号資産取引所を介して?)法定通貨に(ほぼ)無リスクで交換できる。
というのが、今回の三菱UFJ信託の「プログマコイン」の意義なのだろうし、そういう意味では、このプログマコインの存在意義はODXにおけるデジタル証券市場の活性化にかかっている、ということでもあろう。
(なお、プログマはODX専属というわけでもないと思われるので、あくまでこの説明は便宜上のものである)

では、たとえば現在、日銀が“検討”を重ねているというCBDC(中央銀行デジタル通貨)を活用すれば、やはりブロックチェーン土台の通貨でもあり、日銀ネット上での問題が解消する、などということはないのだろうか。

●財務省、デジタル通貨対応で体制拡充へ(日経 2022年2月6日 20:09)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA28BE70Y2A120C2000000/

この記事は、やはり最近読んだもので、大蔵省がCBDC導入に向け、7月に体制強化をするよ、という内容。
通貨発行を担う理財局国庫課の専従は現在2名しかおらず、7月に2名増員する予定だとのこと。正直、えっ、そんなに少ないの? と思ってしまった。
もし日本にCBDCを実現させようとした場合、財務省所管の通貨法の改正などが必要となるようだ。法律に盛り込む内容も、仲介機関の選定や手数料、限度額、個人情報の扱いなど、多岐にわたる。記事によれば、大蔵省は金融庁とともに制度設計を検討していく、とある。

議論を主導する日銀は、21年4月から実証実験はじめ、第2段階となる22年4月からは、現金との交換や決済システムとの連携を確かめる、という予定になっている。とのこと。
実態は知らないが、大蔵省と日銀は“不倶戴天の敵”(?)のごとく仲が悪いそうで、この記事には、そんな確執が垣間見える気がする(これもあくまで、個人の感想なので悪しからず)。

そういうわけで、CBDCの実現自体に、まだまだハードルがある状況に思われる。
日本では23年に本格稼働すると思われるデジタル証券市場(ODX)が「T+0」も一つの“売り”として存在感を示していくことを期待する。
いずれ投資家層がデジタル証券投資に慣れた場合、「どうして株や債券は2日もかかるの?」「いっそのこと、全部デジタル証券に切り替えてくれない?」なんてことにもなるかもしれない(危うし!東証、JSCC、ほふり!!)。

さて、先述の直近ブログ(『このブログのテーマにある一貫性』)のとおり、自分はこういったデジタル証券にはコンテンツを軸にしたファイナンスニーズ及びマーケティングとの親和性が有ると感じている。
(これまでも、2021年1月29日『SBI・三井住友FGのPTSと新たなエンタメ金融の考察』他、このブログで言及し続けている)

三菱UFJ信託のプログマでは、プログマコインを介してデジタル特典・会員権的な扱いの「ユーティリティ・トークン」(参照-昔書いた記事:2018年11月20日『まちがってる!(セナーと金商法についての報道) その1』~その5  、2021年8月25日『NFTをきっかけに、これまでと未来を考える』ほか)との互換性をうたっており、ファンマーケティングへの援用という発展が期待されている。
セキュリティ・トークンを発行する企業など発行体のファイナンスの際、ユーティリティ・トークンの活用も介した相乗効果を見込み、マーケティングの土台になるかもしれない。
そういう観点からも、自分は注視している。

彼らが言う会員権的なユーティリティ・トークンと、現在流行の「NFT(Non-fungible Token)」との棲み分けや、各々の法的位置づけの整理など、諸々課題はあろう。
それでも、「金融側のプレイヤー」が担う役割に(前述ブログのとおり)、
「こうやって御社のファンを取り込んでいきましょう」
が含まれる方向性、チャンスに期待したていたい。
このODX-プログマの活用がその土台になるかもしれない。

 

(2022/2/9追記)肝心なことを書き忘れたので追記します。

自分は、このデジタル証券(およびユーティリティ・トークン?NFT?)を利用したマーケティング活用に欠かせない機能が、デジタル証券の発行企業に株主(投資家)を通知する機能だと思っている。
つまり、株で言う「基準日」段階の株主を知らせる「ほふり」の役割だ。
株の場合、基準日付で把握された株主に「配当」を交付するわけだが、もう一つ「株主優待」というのが投資家にとっての魅力だ。

前述のとおり、デジタル資産の場合、理論上は“いつでも”株主(投資家)を把握することができるわけで、株主優待的なサービスを“決算時に限らず”実施できることになる。

そもそも、企業を意表する株式と違い、デジタル証券なら様々な対象を裏付けにした証券が発行できる。例えば、(発行企業の資産である)コンテンツが対象となったデジタル証券、というのもあり得る。
収益配当に際し、金銭以外の“サービス”的な還元方法も考えうる。
(それこそ、デジタルベースの「ユーティリティ・トークン」「NFT」などは親和性が高い)

つまり、企業にとってこれまで株主優待くらいしかなかった投資家(≒企業にとってのロイヤルカスタマー)向けのサービス提供が、デジタル資産やNFTなどを活用することで幅広くできるような世界が広がる、というわけだ。

そういう意味で、今後、企業にとって、自社が持つ「コンテンツ」の価値が格段に上がってくるものと思われる。
「うちには、そんないいコンテンツがないなあ」という企業であっても、「だったら、他所からコンテンツを獲得しよう」という動きが起こる可能性もある。

そういうわけで、企業ファイナンスを担う法人部門、あるいは企業オーナーの資産運用を担う富裕層投資サービス担当者は、
「こうやって御社のファンを取り込んでいきましょう」
という選択肢の中に、「コンテンツ戦略」が含まれてくる可能性が有る。

というか、自分はそういう流れを、とてもとても、期待している。そういうわけで、プログマには今後とも関心を寄せていたい。