●堂島商取社長「コメ先物、試験上場の延長申請せず」(日経 2021年7月29日 19:13)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF294LZ0Z20C21A7000000/

●コメ先物、展望なき終幕 価格決定、JAは主導権譲らず(日経 2021年8月11日 2:00 )
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74670730Q1A810C2QM8000/

堂島商品取引所が10年続いてきたコメ先物取引を諦め、終了することになった。
どうやら、コメの流通価格決定を担うJAから頑強な抵抗があり、諦めざるを得なかったようだ。
それにしても、日経新聞内での記事、ちっさ!
元々、注目度が低いのか、あるいは、(どこぞの方面に忖度した?)恣意的な扱いなのか。

食料自給率が低く(コメは高いが)、コメが主食の日本人の一人として、JAの零細農家救済機能とコメ先物市場の意義をどう天秤ばかりするべきかはさておき、あくまでも“印象論”として、「またしても守旧派・既得権益層に新たな改革の動きがつぶされた」感じがして、あまり気持ちがいいことではない。
また、社長の中塚氏が元民主党議員の堂島取引所 vs 自民党基盤のJA、という構図もあり、「結局、政争の具なのね」という白けた印象も持った。
(これは、自分が政治的にどういう立ち位置なのか、という話ではないので、くれぐれも勘違いなさらないでいただきたいですが。。)

昨年10月に、「SBIの大阪金融都市構想とぐるぐる」というブログ記事を書いた。参照したソースは以下の記事。

●堂島商取「総合取引所」目指す SBI主導で経営再建(時事通信 2020年10月12日19時03分)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020101200794&g=eco

自分は元々、「堂島商品取引所」の存在自体を知らなかったが、この記事周りを追うことで、SBIの大阪金融都市構想に連なるもの、との認識を得た。
その流れでいうと、今回の記事は、SBIが「既存のデリバティブ市場の枠にとらわれず、リスクマネジメントを必要とするあらゆる取引のリスクヘッジ市場」(デジタル資産関連含む)を将来的に目指す堂島取引所の以下の1~4の工程(前ブログ記事より)で、いきなり序盤から「ノックダウン」させられた感じに思われる。

1 株式会社化・増資・経営陣刷新【←済?】
2 コメの現物市場も設け、先物取引と両輪で株価指数先物の匹敵するコメ先物指数を組成(可能性)【←今ここ】
3 当面は農産物取引所の魅力を拡充【←未?】
4 将来は商品、金融、新ジャンル(暗号資産・個別上場株)の先物を組成し、これらのオプションも取り扱う【←未】

前回ブログ記事で、「・・・というわけで、この『堂島商取の総合証券化と大阪の国際金融都市化』については、大いに期待するが、いろいろな抵抗を想起するに、なかなか一筋縄ではいかないだろうな、と考える。」と書いたが、予想通り、残念ながら一筋縄ではいかなかったわけだ。

関西人である自分は、SBIの大阪国際金融都市構想には、どちらかというと賛成の立場だ。
ただ、堂島取引所がその中で中心的位置づけを確保できるかよくわからないし、JPXグループもある中で、プレゼンスを発揮するのはなかなか難しい気もする。
前回の記事で、「・・・先日の東証の売買停止事故を見てもわかるとおり、取引所のキモは『システム』そのものだ。申し訳ないが、現時点では、堂島商取は東証arrownetや世界の主要取引所に伍するほどのシステムは持ち合わせていないと思われる。」と書いた通りだ。

それよりも、今、世の中ではDeFi(分散型金融)などが注目を浴びている中で、世界規模の「総合取引所」の相似形に挑むことが、これからもふさわしいのか、という考え方もあるかもしれない。
(もちろん、「取引所」レベルの大量のデータ処理をブロックチェーンで安定的に運用することなど、不可能かもしれないが)

昨年12月に書いた「デジタル証券のシンガポール集中とエンタメファンド」や昨年10月に「追記」した「金融都市構想と後期倭寇、その他」にもあるとおり、デジタル資産の取引市場構築の動きが世界各国であり、SBI(や、PTSで参加する三井住友FG)の大阪国際金融都市構想の背景には、そういった「新しい金融(商品)」の中心地になる、という考えもあるだろう。
(今年1月にやや我田引水気味に書いた「SBI・三井住友FGのPTSと新たなエンタメ金融の考察」のように)

場合によってはデジタル資産のデリバティブなどの可能性もあって堂島取引所には期待が持たれているのかもしれない。だとしたら、今回の「コメ先物断念」の結果は、今後の方向性の大筋にあまり影響するとは思わない。
「堂島=コメ先物の発祥地」を用いたブランディングの可能性は潰えたが、SBIは、今度は端から暗号資産やデジタル資産関連のデリバティブに特化した堂島取引所再興プランを打ち出せばよいのではないか。

それでも、今回も守旧派や既得権益層に改革が抑えられがちな“いつもの日本”の姿を垣間見て、また、何となく恣意的な記事の小ささを見て、本件には何となくモヤモヤとしてしまった。

<追記2021/8/12>
●コメ先物不認可の堂島取引所、「排出権」の上場目指す(産経新聞 2021/8/10 18:18)
https://www.sankei.com/article/20210810-5JPVCCXGYZKHPA3KAAPAQSFIQA/

上記記事のとおり、堂島取引所は次に「排出権」の上場を目指すらしい。
あくまで「一番大事なことは『総合取引所』をめざすことだ」という姿勢のようだ。
現在のこの取引所の規模感から考え、そこをゴールにするのは相当高い目標にも思うが。
堂島のコメの先物取引は取引量全体の9割を超えていたようなので、ほぼゼロからのスタートになる。
(ただし、不動産の賃貸収入などベースとなる稼ぎはあるらしい。)

正直、総合取引所を目指すという現在の方向性や、そもそも大阪国際金融都市構想の中核的な位置づけ(?)を当該取引所に担わせるのは難しい気もする・・・。

昨日ブログ記事を書いたときは、恣意的な報道の小ささに、「何だかモヤモヤするなあ」の気分が強かったが、一夜明けて冷静に堂島取引所の現在の姿を見たとき、「う~ん、堂島総合取引所構想自体に無理があるかもなあ」の気分が募ってきた。

いずれにせよ、コメ先物(=世界初の先物市場)発祥の地という「堂島」ブランドは大事にしてほしいな、と多少、思う次第。
(以上、追記終わり)