「ファスト映画」は害虫なのか?

●「ファスト映画」投稿者3人を逮捕、全国初 「アイアムアヒーロー」「冷たい熱帯魚」など無断投稿(Yahooニュース 2021/6/23)
https://news.yahoo.co.jp/articles/09b1ff1efb34bb543996cf4ef6200c299a4a77b4

少し前のニュース。「ファスト映画」なるものの制作者が逮捕されたというもの。

今回の摘発で主要な役割を担った一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、
「CODAでは、悪質なアカウントについては、海外のプラットフォーマーに対しても国際執行手続を行い、アップローダーを特定するなど対策を進めて参ります。また、これら動画を視聴する行為は、犯罪者に間接的に収益を与え、さらには作品を作り出す権利者の利益を損ねているという事実をぜひ知っていただき、安易な視聴は控えていただくようお願いいたします」
と発表した。
映画(作品)の権利者側に立った、毅然たる声明だ。

ファスト映画とは、既存の映画やドラマを違法コピーして編集し、短時間に要約した解説動画のことだ。YouTubeなど動画共有・配信サイトによく投稿されている。

正直、ファスト映画、などという言葉は初めて聞いたが、この手の動画はYouTubeでたまに見たことがある。
著作権違反なのは自明だが、それでも自分は、1本の映画を丸々見ることとは違う、解説動画としての独自の魅力を感じていた、と正直に書いておく。
自分が見た解説動画には、自分がすでに見た映画作品も、未見の映画も両方あった。

既知の作品の解説に対しては、「なるほど、このように端的にまとめられるものなのか」「なるほど、そんな着眼点(動画作成者の)もあるのか」といった感想を持った。
未見の作品に関しては、「なかなか面白そう」と思えた作品の一部は、正規の有料動画配信サイトで見直したことも何度かある。
つまり、作品の権利者(その映画の製作委員会など)にとってみれば、その違法な解説動画のおかげで自分という顧客が獲得できたわけだ。

映画などは、事前にある程度興味を持たなければ劇場に行ったり動画配信で消費者がわざわざ見ようということにはならない。また、(最近はネット配信によって多少、変化が出ているが)多くの映画は劇場公開など当初認知時に偏って消費され、賞味期間が短い。

だから、このニュースが出る前は、「違反動画ではあるが、作品の権利者にとっては“いい宣伝”になっており、違法性に目をつぶって“win-win”状態にあるんだろうな」と思っていた。
やっきになって取り締まるのでなく、顧客誘導の波及効果も狙って放置しているのだろう、と。

しかし、その認識については誤解も甚だしかったようだ。
前述のとおり、作品権利者側は毅然として逮捕を促し、消費者側にも安易な視聴を控えるよう通知した。

果たして、この対応でよかったのだろうか?

もちろん、許諾も得ずに他人の著作物たる作品を切り取って自身の解説を加えて発表し、あまつさえ広告収益さえ得ていた輩などには同情の余地もない。そういう意見が大半だと思うし、法律を杓子定規に運営すれば、速やかな逮捕もやむなしなのかもしれない。
それでも、権利者側の拙速さや恣意性を感じてしまうのだ。

CODAの推計では、これまでの累計被害額は950億円になるそうだ。
この数字については、正直「?」だ。
この記事ではファスト映画が増え始めたのは2020年ごろというから、主にこの1年ほどで発生した逸失利益が950億円もある、というつもりなのだろうか。

ちなみに2020年の映画劇場興行収入が1432億円で、コロナの影響で例年より大幅減だった(前年比マイナス約1200億円)。
まさかそのほとんどが「ファスト映画の違法視聴による収益機会の逸失」だったとでもいうのだろうか。
いやいや、代替された先はネットフリックスなどの動画配信であって、コンテンツの権利者にとってそこには海外顧客の発掘というメリットもあったはずだ。

この「嵩上げ」された感がある被害額や、「ファスト映画」なる聞きなれない名称が急にメディアで耳目を集めだしたこと、さらに、その後すぐに逮捕者が出たことなどを見ると、(著作権違反者側の方を持つわけではないが)権利者側である“守旧的”なメディア・コンテンツ業界側の、恣意的な「圧」を感じてしまうのは自分だけだろうか。

「ファンダム」という言葉がある。
以前、「「コンテンツ・イズ・キング」と『天下の秤』」で紹介した、福原秀己氏著の『2030「文化GDP」世界1位の日本』で以下のように紹介されている。
「ファンダム(Fandom)とは、特定のコンテンツ(人物や物事や事象)に関して、そのファンが世界観を共有して創り出す「世界」ことである。文化や権威や領域という概念を包摂する抽象的な言葉。20世紀の初頭から使われている言葉。」

そして、これからの映画など各種コンテンツは、ファンがその世界観に共感してファンダムを軸にコミュニティ化していくような発展の仕方が望まれているように思う。
そこでは、トップダウン(権利者が旗を振ってすべての差配をする)でなくボトムアップ(あくまでファンが自発的に動き、権利者もファンと一緒になって動く)のアプローチが望ましい。
自分は、ファスト映画には、そんな、ファンを取り込み、コミュニティ化する一つのツールとしての発展可能性を感じていた。
それだけに、今回の恣意的・性急な摘発と逮捕には、残念なものを感じるのだ。

今回の件について、自分同様、様々な意見が出ているようだ。

●(参考)「ファスト映画問題から考える映画の未来」映画感想TikToker・しんのすけインタビュー(Yahooニュース。映画ナタリー 7/5(月) 13:28)
https://news.yahoo.co.jp/articles/7ae43b902d8f166f55efb0585b543656d8afe98e

このしんのすけ、という方は、権利者に一定の許諾を得て、「映画感想」動画をTikTokに上げている方のようだ。彼のTikTokを見たことはないが、記事を読んだ限り、彼には、映画愛というか、対象となる映画の認知を広げ一人でも多くのファンを獲得し仲間にしたい、というような“共同体”思考を感じる。

この記事でも、
「YouTube上のファスト映画は、ファンや一般層が映画の感想を吐き出し、作品に群がる場所として役立っていた」
「ミニシアター系映画、ビッグバジェット映画でも並列に、同じ目線で観られていた」
(多少要約)
というファスト映画が持っていた「意義」をやんわりと示唆している。

この記事への感想欄にもあったが、例えばアメリカはファンによる二次著作には寛容で、「フェアユース」という考え方がある。場合によってはそういった二次著作による二次著作者の収益化も認められている場合があるらしい。

こういった、ファンのコミュニティを醸成し、ファンや批評家による二次著作を認めたうえで、権利者も収益を受け取り、場合によっては二次著作者にも収益が上がるような仕組みを作れないものだろうか?

以前、ゼロベースで「ゼロベース思考:コロナとカラオケ」という文章を書いた。

ここでは、カラオケの派生ビジネスとして、世界中のその楽曲のファンの歌合戦的な、ファン参加型モデルを起案し、そこに広告をつけ権利者に収益分配するようなアイディアを書いた。
ファスト映画についても、そういった“全く新しい”ビジネスモデルを考えてみたらどうだろうか。

自分は『スラマット』という、各種プラットフォームを横断する「投げ銭」的な広告モデルを提唱してきた。このビジネスプランは、さりながら、あまり前に進まなかったし、検討の過程で別のものに変形していった。
ただ、当初のアイディアにも大きな可能性が有ったと考えている。
このファスト映画にしても『ファスト映画スラマット』のような仕組みを作ることは可能ではないだろうか。

例えば、
① ファスト映画制作者が権利者に許諾を得て収益分配を約する(『ファスト映画スラマット』を利用することで自動的に許諾、という仕組みが望ましい)
② Youtubeなどプラットフォームにファスト映画をアップし、同時に『ファスト映画スラマット』へリンクを貼り、興味を持った人にそこでの投げ銭を依頼する
③ 『ファスト映画スラマット』では投げ銭をファスト映画製作者、権利者、リンク元プラットフォーム、の3者に定められた分配を行う
④ 投げ銭は(投げ銭者の意向により)『ファスト映画スラマット』上で掲載され、その作品への貢献度を競える

こんな取り組みを、権利者側も巻き込んで行えれば、ファスト映画を活用した長期的なファンコミュニティ形成と、コンテンツの新しい収益化および収益サイクルの長期化、といった大きな効果を望めるのではないだろうか。

ちなみに、こういった新しいことを考える場合、権利者側は、えてして自分たちが“抱え込む”形の仕組みを考えようとするものだ。
例えば、「Youtubeの代わりに、ファスト映画専用の動画配信プラットフォームを作り、そこだけにファスト映画の配信を認めてはどうか?」といった発想だ。

<追記:2021/7/11>ちなみに、ファスト映画関連のニュースへのコメントで、「ファスト映画にニーズがあるなら、権利者側“だけ”がファスト映画的な動画を作って既存の動画配信プラットフォームに掲載したり、権利者“だけ”が掲載できる新たな有料プラットフォームを作ればいいのではないか?」という意見も何件か見た。(以上、追記、終わり)

残念ながら、そんな自分だけに都合がいい仕組みは、今の世の中、一般層には認められないし、すでに存在する大きな動画プラットフォーマーを駆逐することなど、端から目指しようがない。<追記:2021/7/11>また、前述のとおりファスト映画制作者の視点やセンスはなかなか侮れないものだ。彼らを“犯罪者”とみなすのでなく、映画を広める“同士(=ファン)”として積極的に取り込める方が、権利者が頭でっかちにファンを巻き込もうとするより良い結果をもたらすような気がしている。(以上、追記、終わり)「プラットフォーマーと共存」でき、「ファンと分かち合え」、「権利者が収益を得る」、三方よしのモデルを作ることを推し進めるべきだ。
また、(JASRAQがそうだとは言わないが)利権ビジネス的な“見え方”がしてしまうと育っていかないと思われるので、個人的には「ファンと分かち合え」の部分をないがしろにしない姿勢が肝のような気がしている。

このような<追記:2021/7/11>ファンダムをベースとした新たな(以上、追記、終わり)ビジネスを生み出すことこそ、“言うは易く行うは難し”ではあるが、これからの世の中に求められることではないだろうか。

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