●オリラジ・中田敦彦が明かした退所後の構想 2025年には武道館に(LivedoorNews 2020年12月29日)
https://news.livedoor.com/article/detail/19457165/

今さらの情報だが、お笑いコンビのオリエンタルラジオのお二人が昨年末に吉本興業を退所してフリーになった。
(テレビなどのレガシーメディアや大手芸能事務所など“メディア芸能ムラ”が外部環境の変化で右往左往する一方で)“「個」が個々の能力やつながりでビジネスをマネージする時代”への潮流を象徴するニュースの一つだった。
彼らがYoutubeで公開している記者会見(風?)動画を、遅ればせながら拝見した。そこには、これからの自分が目指すべき(あるいはもっと広く、社会そのものにとっての)いろんなヒントがあった気がする。

このYoutube動画のコメントに、「オリエンタルラジオ株式会社が有ったらその株を買う」とか「オリエンタルラジオ興業を作って!」のようなコメントが散見された。
自分はこの間、ブログ「「コンテンツ・イズ・キング」と『天下の秤』」の中で、これからのコンテンツビジネスはマルチなウィンドウでの流通、ファンとのインタラクティブ性を基調に、クリエイティビティを軸にした株式会社ポケモンのようなビジネスユニットが求められる、と書いた。
コロナ後の映画産業をぐるぐると考える」でも書いた通り、例えばジャニーズのアイドルなどタレントの動画などは一種の「映画」コンテンツだし、その源泉となるタレントは、ポケモンなど創作物の“原作”のようなメタな存在だ(≒川で例えると「川上」の位置にあたる)。
だから、「オリラジ(株)」(仮)は「(株)ポケモン」と同質のビジネスユニット、ということになる。

<追記:2021/1/13>※ 「メタ」・・・ある事象の源流となる抽象的概念を示す接頭語。「高次の」「川上の」という意味に近い。(福原秀己著『2030「文化GDP」世界1位の日本』(白秋社)より)<追記終わり>

これから、こういった個々のコンテンツごとに、クリエイティビティを中心に置く形態の「ビジネス体」が、コンテンツの価値を高め(可能な限り)永続性を保つ目的で設立・運営されていくのではないか。
一方、芸能事務所や出版社などレガシーメディア側は、例えばそこへの出資やマネジメント面での人的関係を保つ形で、共生を図っていくことになるのかもしれない。

そして、ここに新たに金融側のビジネスチャンスも出てくるのでは、という気がしている。
上記オリラジの記事で「2025年に武道館でライブを」とあるが、本人たちの会見動画の中では、「(ライブ開催のために)自分たちがリスクをとってお金を集めなければ・・・」という不安(?)なコメントもあった。
これまで、リスクのある先行投資やイベント開催の資金調達には芸能事務所やそれに連なるスポンサー企業獲得システム(広告代理店含む)が必要だった。
一匹狼になったタレントやコンテンツなど、ファンは持つが資金力のないビジネス体には、単独でお金を集める力は乏しい。
そこをサポートするのが、これからの「金融ビジネス」の一ジャンルになるのではないだろうか?

「コンテンツ・イズ・キング」と『天下の秤』」や「デジタル証券のシンガポール集中とエンタメファンド」などで書いた通り、自分はSTO(Security Token Offering)は重要なツールになると考えているし、その投資対象のファン吸引力を当て込んだ企業マーケティングへの援用も大きなビジネスチャンスであると思う(個人データ利用についてのルール作りは必要だが)。

例えば、まずは企業が1社提供のスポンサーになってコンテンツやタレントのイベントに資金提供し、その上で企業が発行者となる(?)STOを行い、ファンである投資家と一緒にイベントを盛り上げるような図式を形成しながら、イベントの成否によるリターンを期待させる、というようなエンタメファイナンスの形態は、成立し得るのではないだろうか。このファン投資家との関係構築はスポンサー企業にとっては将来のロイヤルカスタマー獲得につながる。つまり、投資でありながら「ファンマーケティング」の要素が加味されることになる。

昨年改正の金商法で規定されたSTOは、金融側のプレイヤーである第1種金融商品取引業者(≒証券会社)にしか認められない。今、証券マンは資産運用でしか顧客と繋がれていない。IPOやM&Aなど企業ファイナンスでかかわれるケースはあるが、稀な話だ。
しかし、こういったファンを持つコンテンツを絡めたマイクロファイナンス的STOで「エンタメとファイナンスのつなぎ手」になることで、新たな道が得られる。
自分は、これは総合証券会社が組織で行える仕事ではないと思っている。「STOとアイドルファンドと徳の経済」に書いた通り、中堅企業オーナーなど顧客としっかり関係構築ができているIFA の“個”の力(やその”個”のつながりの下)で実現していくのではないだろうかと思う。

さらに言うと・・・。
イベントに際し、スポンサー・投資家への資金還元が集中してしまい、肝心のタレントなどに還元が少ない、という事態が起こらぬよう「アドコマース」が併用される、という未来像もあり得る。
この「スラマット」(イメージのための暫定版)のようにイベントチケットに個々のスポンサーを募るという考え方だ。
(現時点で自分の中でスラマットの概要は再考中なので、本件に関しては、もう少し頭をひねらないといけない、とは思っている。)

いずれにせよ、自分がずっと「エンタメとファイナンスをグローバルにつなぐことができるクリエイティブ人材」として目標としてきたことへの一つの具体的な道筋が見えてきた気がする。