続き

<3>文中にテスラの例を挙げられていますが、大いに示唆的に思います。
テスラはイーロン・マスクの強いベンチャー精神を背景に、ここ数年で急激に成長しています。その躍進は、彼自身が持つ「地球はこのままでは持たない。人類を火星に移住させる!」という常人離れしたビジョンと強迫観念にも似た問題意識が礎になっています。良し悪しは別にして、彼の“個の力”が求心力となり、テスラやソーラーシティーあるいはスペースXの存在が指し示す「未来」に人々が共感したことで資金や人材が集まって今のテスラがあり、そしてそれが近未来の社会構造を変えつつあるように思います。
それは、既存のエネルギー構造からの転換であり、多軸化するエネルギーを効率利用するスマートグリッドがあり、同じくネットにつながるIoTがあり、さらにビッグデータを活用し飛躍的に性能を向上させるAIがそれらを制御する、という今と全く連続性がない社会観です。

<4>そんな中で既存の自動車はネットにつながる家電の一つにすぎなくなります。大量な部品メーカーの労働集約型の現在の大きな自動車業界が、組み立て型パソコンのような単純な小さい業界へとシュリンクしてしまうリスクもありますし、自動運転技術の進化とシェアリング・エコノミーの浸透により、下手をすれば消費対象としての自動車の経済規模は現在より大きく減退してしまうかもしれません。
5年前の「311」の後で、上記のような“スマート社会(?)”への転換についての議論が経済界でなされていた記憶があります。当時、日本は電気自動車では三菱自動車や日産など世界の最先端に居たと思いますし、ソニーはじめ伝統的に蓄電池技術などはそれまで世界の最先端でした。この時期、「HEMS」など省電力システムに家電化された電気自動車をどう活用するか、といった社会構造の転換についても、大いに議論があったはずです。

<5>しかし、テスラがいつの間にか世界の電気自動車の流れの中心に座ってしまった間に、三菱自動車は不祥事で自壊し、ソニーもリチウム電池事業を売却し、HEMSなどの取り組みも“家庭”の枠を超越できず“社会構造の変革”まで届かないまま足踏みしています。
経済成長のプロセスとして、個の力をもとにした挑戦を周りが信任しサポートすることで拡張していくアメリカ型の経済成長モデルと、官庁や経団連等が利益調整しながら社会全体を底上げしていこうとする日本型の経済成長モデルがあり、現時点では日本型がアメリカ型に完敗しています。私は必ずしもアメリカ型を礼賛するつもりではありませんし、バブル期までは日本型の方が大いに躍進できたこともあったと思います。しかし、大きなパラダイムシフトの時代においては、前例踏襲を是としがちな利益調整型では、機動力のあるチャレンジ先行型の社会に負けてしまう確率が高いと思います。

<6>特に、グローバル化し、今や発展途上国すらライバルになっている現在、機動性のなさは将来において致命的な結果をもたらしかねません。
テスラと日本の自動車産業との比較では、調整型で自縄自縛になってしまった日本社会がイーロン・マスクという個人に敗れたようなそんな寂しさを感じています。
(一方、トヨタをはじめとする燃料電池・水素エネルギーの活用という方針は、世界のエネルギー構造が多軸化する中で場合によっては先見性のある取り組みかもしれず、それはそれで非常に期待するところではあります。)
先に、今の日本の問題を「老化現象」と呼ぶべきではない、と書きました。私はむしろ、日本社会に根付いた日和見主義や前例踏襲主義、そして調整型社会構造のもたらす害悪にこそ目を向けるべきだと思います。
日本人は一人ひとり非常に優秀だと思います。しかし、周りを気にして空気を読みすぎるきらいがあります。

<7>現在、その傾向は行き過ぎており、私たちの周りには“出る杭をたたく”“足を引っ張りあう”息苦しい社会が広がっています。その澱んだ社会の中で、人々は(老人や中年だけでなく、若者や子供たちも)変化を恐れ、変わらないことのみを是とすることが当たり前になっています。
この日本の病巣を何と名付けるべきか・・・周りを気にしすぎる「ヒラメ病」などはいかがでしょう? いや、名称はともかく・・・日経あるいは日経ビジネスなどのメディアには「ゆでガエル」などの特定の世代論ではなく、老若男女を貫通する「日本病」として広く問題意識を喚起してほしいと思います。
私個人のチャレンジは、なかなか思うような成果をもたらさない日々が続いています。そんな現状にネガティブな気持ちで覆われ塞いでしまうことが多々あります。ですが、自分はゆでガエル世代などではなく「まだまだ若いのだ」と、日々揺れ動きながらも思っています。
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取り留めない内容になったが、いまださまよい続けている自分の中に通底している思いを、今回は書いた気がする。