その後、運命のいたずらで本社(本部)のとある商品部門に行くことになった。自分の人生にとっては、これがその後に有利な条件を獲得できる基盤となった。

本当に有難いことだと思うし、人間(個人)が自分の判断だけで思うような人生を切り開く、などというのは不遜な思い上がりなのかもしれないな、と思ったりもする(「人生万事塞翁が馬」)。

 

その本部ではオペレーション部門だった自分だが、毎月の新商品を決める商品企画会議などには参加した。とはいえ、ほとんど黙って座っているような立場でもあった。

確か、最初のころの会議で本部長から、「最近まで支店にいた櫻井の意見も聞こうか」と言われパニクったことがある。

 

「え~と・・・。自分は結構割り当てに苦労した方でして(笑)。結構、支店はそんな感じだと思うので、来月は新商品は無しで、中国ファンド獲得月間とかにしたらどうでしょう?」

 

小声でそんなのんきな(?)ことを言った。一瞬、座の空気がし~ん、として、「まあ、いろいろな意見があるが・・・じゃ、〇〇君はどう思う?」とスルーされた。

なるほど。ここではこういうことは言っちゃいけないのね、瞬時にそう忖度した。

 

その本部では、最初、関連会社に商品の注文を発注したり、価格を支店に連絡するために全店FAX(!)を出す仕事を、事務職の女性たちと一緒に行っていた。

「試算」を連絡する、という今にして思えば、なんだかなあ、という仕事があった。

その商品の正規価格は、関連会社から注文日の夕方遅くに発表される。しかし、株式相場の前場引け値を使った(あくまでも後場の値動きによっては大幅に変動する)仮計算値を出し、それを各支店に案内する、という仕事だった。

支店ではその価格を見て、「よし。銘柄Aを今日売ったら〇〇円になるのでこれを売って、今月割り当ての商品Bを、今日、××口注文しよう」となる。つまり“回転売買”をしやすくするための必要不可欠な「必殺兵器」の補給だ。

数値自体は汎用コンピューターで自動的に計算されたが、出力された紙を切り貼りして台紙に張り付け、それをFAXしなければならない。

その間、支店の営業マンからジャンジャン電話が鳴ってくる。電話を取ると、決まって「悪いけど、銘柄△△の試算教えてくんない? いくら?」「銘柄●●の試算、教えてよ」という質問ばかり。

「ほんの数分間待てば、皆さんに私が貼り付けたFAXが届きますよ(その数分は、この電話のせいで後ずれしてるんっすけど)」、と言うわけにもいかず。「はい。いくらいくらになります」と答えて電話を置く。そして、また電話が鳴る。電話を取る・・・。

 

「こういう時は、こうすればいいのよ」

見かねた事務職の先輩が、机の受話器を一つ一つ外した。それは完全に親切心からだったのに、自分は無言でその受話器を再び置きなおし、かかってきた電話に出た。「はい。その銘柄は〇〇円です」。

 

完全に理性的ではない判断だった。